これほど奇妙で、美しい温泉を私は見たことがありません。
1920年代創業の風変りなホテルがはるか昔に焼失し、その廃墟はかつてヌーディストの楽園として知られ、それは今日でもさして変わりありません。
そこへの道中で、私は愛車を失いました。
注意
紹介したルートは、山火事被害のため長期間閉鎖されているとの情報があります。温泉自体は開いていますので、カヌーやよりチャレンジングなルートによる到達の可能性は、自己責任で探ってみてください。
よく読んで!
正しい道を知れば、ヴェルデ温泉にたどり着くのは難しくありません。
スタート地点は観光の拠点として有名なセドナにほど近い、キャンプ・ヴェルデという田舎町。
グランド・キャニオン、アンテロープ・キャニオン、ホースシューベンドといった観光スポットの数々は、ヴェルデ温泉の前では大量消費型の色あせたものに見えるかもしれません。
キャンプ・ヴェルデからハイウェイ260号線を12kmほど南東へ向かい、Fossil Creek Roadという未舗装道を右折します。
ここでレンジャーに停車させられます。
この先のフォッシル・クリーク自然保護区へ進入するには、許可証を事前購入する必要があるためです。
幸い、ヴェルデ温泉は自然保護区をかすめるような位置にあるので、許可は不要。
レンジャーに温泉へ行きたい旨を伝えれば、通してもらえます。
そこからダート道を約30km南下するため、ロードクリアランスの高い車が必須ですが、道なりなので難しくはないでしょう。
一方、フェニックスからGoogleマップにしたがって進めば、私が車を全損したように、100%の確率で悲劇が待っています。
後述のとおり、ヴェルデ温泉へは川を歩いて、あるいは泳いで渡るルートを選ばねばなりません。
Googleマップがおすすめする温泉直結のルート(Dugas Road)は、想像を絶する悪路です。
さて、ヴェルデ川沿いまで峡谷を降下したところがChilds Dispersed Camping Areaという無料のキャンプ場。
くみ取り式トイレ以外のサービスは存在せず、キャンプ上級者向けです。
車を降り、ヴェルデ川を上流方向へ4kmほど歩きました。
温泉は川の対岸にありますが、キャンプ場周辺は水深が深く流れも速いので、かぎ状にう回する形。
氾濫原にあったと思われる散策路は鉄砲水で完全に消失していました。
安全に対岸へ渡れそうな地点に到着。
もっとも水量の少ない場合でも、太ももまで川に浸かる必要があります。
増水すれば危険な水深なので、数日前までの天候を下調べしたうえで危ないと思ったら引き返す勇気も必要です。
奇妙にも美しい空間
狂騒の20年代に創業し、1962年に焼失した温泉ホテルの廃墟がここにあります。
宿泊施設は撤去されているものの、土台部分と浴室周辺は奇跡的に残存しています。
ヴェルデ川を眼下に望む数メートル高い段丘に位置し、素晴らしい眺望。
もっとも手前の岩盤に洞窟が掘られ、湯が流出していました。
内部を探ってみると、かつて浴槽があったと思われるくぼみを見つけましたが、入浴不可。
最深部には源泉があると思われますが、真っ暗なので調査は断念しました。
洞窟の横には、大きな露天風呂がありました。
泉温は37℃のぬるめで、無味無臭。
残り二つの浴槽とは使用源泉が異なる様子。
意外なことに水深が2m以上あり、大人が立ち湯をしても足が底に届きませんでした。
浴槽の底は自然の岩肌になっていて、その隙間から大きな気泡が上がってきていました。
足元湧出ということです。
カラフルな湯屋の奥には、一人サイズのもっとも小さい浴槽がありました。
いよいよ、グラフィティの数々で彩られた空間に潜入!
4人サイズの浴槽が一つ。
座った時にちょうど良い深さがありました。
入浴ルールはClothing optional。
かつてそうであったように、今日でもヌーディストが集う楽園ですが、水着を着用しても構いません。
木か女体かを模したグラフィティの陰部に位置する湯口からは、炭酸の泡付きとともに源泉が掛け流されていました。
源泉は金気臭を発し泉温40℃。
湯屋の壁は温泉ホテル当時のものですが、天井は失われていました。
日中は直射日光を遮るものがないので、日差しが傾く朝夕の方が快適に入浴できそう。
排水口は水面にあるほか浴槽の底にもあり、そちらはボウリングのピンで封されていました。
この構造により湯を抜いて清掃できるため、浴槽内は清潔に保たれていました。
一度目は己の準備不足で愛車を失い長らく失意の底にありましたが、ようやく気持ちの整理がつき、二度目の挑戦で色鮮やかな楽園にたどり着きました。
その感動は筆舌に尽くしがたいものがありました。
まとめ
Verde Hot Springs, Tonto National Forest, Arizona, U.S.
私の好み
種類:野湯 (キャンプ可)
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~40℃