こんなにクレイジーな温泉は初体験。
涸れ川の河床に点々と続く動物のふんをたどり、マスタング(北アメリカ大陸の野生馬)の水飲み場を発見。
そこに湧く野湯は、入浴マナーの説明書きだらけ!?
どこでもない場所
アリゾナ州フェニックスとネバダ州ラスベガスを最短経路で結ぶ、国道93号線。
何かと見るべきところの多い二つの巨大都市の間には、なぁ〜んにもありません。
夏場の気温が40℃を超える過酷な気候の砂漠地帯では、車を一瞬降りることすらはばかられます。
国道から未舗装の横道に逸れて、キャトル・グリッド とかキャトル・ガードとか呼ばれる鉄格子の上を渡ります。
これはアメリカの田舎道ではよく見られる機構で、車や人は通行できる一方、家畜が逃げたり野生生物が道路に侵入したりするのを防ぐ目的で設けられます。
ここからずっと先に、知る人ぞ知る温泉があります。
路面が荒れているのでこの辺で駐車し、左手のわだちを進みましょう。
国道93号線の下をくぐります。
未開の荒野に、膨大な量のコンクリートを惜しげもなく使用した橋梁が対照的。
熱い、クサい
道が消失し、10メートルほどの崖下に涸れ川が見えます。
急斜面を注意深く降り、後は河床を下流方向へ2キロ強歩くだけ。
これが思いのほか苦痛。
年に数度の激しい鉄砲水を幾度となく繰り返して洗われた砂地は、ビーチの砂のように粒子が細かく、靴が埋まります。
そして、暑いを通り越して熱い荒野に漂う、動物臭。
そこら中に、野生生物のふんが落ちています。
このふんをたどればもっとも確実な経路で岩場や斜面を突破できることが分かってきました。
しだいににおいがきつくなって、まだ乾燥していないふんが見られるようになってくると、そこにマスタングが3頭を発見。
互いに驚き、私は硬直し、マスタングは目にも留まらぬ速さで崖をかけ上がる。
ここに、温泉がありました。
涸れ川の伏流水が河床に現れ、それと関係があるのかないのか、温泉も湧出。
辺りには動物が踏み荒らした跡と、真新しいふん、それにたかるハエがいっぱい。
ここは、乾いた大地に生きる野生生物の生命線となる水飲み場なのです。
人為的にこしらえられた岩風呂に近付いてみると、石にたくさんの説明書きがありました。
"STAY OFF WALL(浴槽の壁に踏み込むな)"
"PLEASE DO NOT PLUG OUTLET(排水口を塞がないで)"
"ENTER AT RIGHT(右から入れ)"
あたかもマナーにうるさい銭湯のような、場違いの光景に思わず笑ってしまいました。
水面より少し上に、人為的に掘削あるいは拡張された湯口があって、その位置関係が日本の典型的な露天風呂を思わせます。
無味無臭の源泉は湧出点で38℃、浴槽内で34℃のぬる湯。
水深は座ったとき腰までで、底には藻の繁殖が目立ちます。
周囲にふんのにおいが立ち込め、ハエの攻撃が止みません。
控えめに言って不快な空間で、私は笑みを浮かべていました。
あまりのクレイジーさ加減に、あらゆる苦悩や葛藤が意味を失っていました。
まとめ
Kaiser Hot Springs, Wikieup, Arizona, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~38℃