こんな名湯は日本にもそうそうないし、そもそも温浴施設の数が少ない北米ではなおさら。
日本の温泉文化が独自の発展を遂げたからといって「日本の温泉が至高」などと短絡的な思考に至るのは危険だと痛感しました。
歴史的な温泉宿
カリフォルニア州の州都サクラメントから車で1時間半。
走りやすい未舗装路の先に、ウィルバー・ホットスプリングスはあります。
ネイティブ・アメリカンのウィントゥン族などに医療目的で利用されていた温泉が、ゴールドラッシュ期の白人に知られたのが1863年。
金鉱山の事業化には成功せず、代わりに温泉宿が創業したのが1865年。
日本の江戸時代、慶応元年に当たります。
その後、何度もオーナーが代わりながら、1910年に建設されたホテル棟が、丁寧にリノベーションされて現存しています。
宿泊オプションは、料金順にキャビン(一棟貸し)、ホテル、ソーラー・ロッジの順に三つ。
受付がそこにある、という理由だけでなく、どのゲストもホテル棟に頻繁に出入りすることになるでしょう。
施設内に食事処はなく、近くに飲食店もありません。
そのうえ金・土曜を含む日程では、最低2連泊が必要。
滞在中は必然的に自炊することになるので、ホテル棟では宿泊者全員に巨大な冷蔵庫が割り当てられます。
調理器具、食器、調味料類は完備。
広いダイニングで思い思いに食事をとります。
ソーラー・ロッジ
私は宿泊場所として、ソーラー・ロッジを予約。
より安価な相部屋もありますが、個室を選択しました。
廊下から入ってすぐのところにベッドが一つ。
部屋にはトイレさえ無いシンプルな構造。
はしごでロフトへ上ると、もう一つのベッドがありました。
緑の薬湯
駐車場は、宿泊施設などのある一帯から5分ほど歩いた場所にあります。
なお、チェックイン・積み荷の上げ下ろしの際は、近接した駐車場を利用できます。
サルファー・クリークの渓流沿いを歩いていると、源泉井戸が川原で白煙を上げているのが見えます。
激しく自噴している様子。
一時は人々に忘れられて荒廃していたウィルバー温泉を、現在の姿に仕立て上げた発起人は、心理学者のドクター・ミラー。
1974年に再び門戸を開いた温泉宿は、今や明らかに日本の温泉文化の影響を受けています。
シャワールームを兼ねた入り口を通り抜けると、その先はClothing optional。
日本でも近年見られないぐらいに、皆さん伸び伸びと全裸で混浴しています。
シャワールームの向こうでは、小さなバスタブに鹿威し(ししおどし)を介して透明な沢の水が注がれています。
板張りのデッキに囲まれた中央部には、スイミング・プールがあります。
ここでは源泉が使用されていますが、投入されてから時間が経っているので、常温まで冷却されています。
その間の成分変化により、美しいにごり湯となっています。
プールの奥にはドライサウナがあります。
ドライサウナの横には、サルファー・クリークに突き出たガゼボの下に、マッサージベッドなどがあります。
そこから温浴スペースの全景を望むと、こんな感じ。
温泉の排水で、渓流がすっかり染まっているのが分かります。
三角屋根の湯屋に向かってデッキが一段高くなっていますが、その横に隠れるようにあるのがトーキング・フルームです。
湯屋では静寂を保つために私語厳禁ですが、この浴槽では会話OK。
8人も浸かればいっぱいの小さな浴槽で、温度は高めの42℃程度に維持されています。
湯治場の風情
湯屋はスイミング・プール方面に向かって開放されていて、その反対側はガラス戸、両側面は木造の壁に囲まれています。
まったく同じサイズの細長い浴槽が、川の字に並んでいます。
源泉の投入量の違いにより、手前から37℃、40℃、43℃に設定。
塩分を多く含む源泉が、掛け流し。
塩素消毒は無く、ゴムのような強烈なアブラ臭が鼻をつきます。
午前10時~午後5時の間は日帰り入浴も可能ですが、ぜひ宿泊して、24時間(清掃時以外)思い立った時に入浴してほしいと思います。
とくに深夜の湯浴みがおすすめ。
その空間は、もはや日本文化のイミテーションではなく、ウィルバー・ホットスプリングスという独自の精神性が息づいていると感じ入りました。
こんな名湯は日本でもそうそうありません。
私が保証します。
まとめ
Wilbur Hot Springs, Williams, California, U.S.
私の好み
種類:宿泊、日帰り
ルール:混浴
塩素消毒:感知せず
泉温:~63℃