東の空が白み始めるころ、石畳に鶏の鳴き声が響き渡ります。
メキシコの公衆浴場の前では、常連客が列を作って開店を待っています。
イスタパン・デ・ラ・サル
メキシコシティ地下鉄1号線のObservatorio駅を降りたところの西バスターミナルから、2等バス(Flecha Roja)で直行2時間、または1等バス(ETN)でトルーカへ向かいます。
そこから2等バス(Flecha Roja)でたどり着くのが、イスタパン・デ・ラ・サル。

人口1万5千人のイスタパン・デ・ラ・サルは、プエブロ・マヒコ(メキシコ政府観光局が主導する、魔法のように魅力的な自治体を選出するプログラム)にも選ばれる、知る人ぞ知る観光地です。
イスタパンとはナワトル語で「塩の上」という意味で、デ・ラ・サルとはスペイン語で「塩の」という意味。
塩分を多く含む温泉が湧出することが、市の名前そのものになっています。
ダウンタウンの公衆浴場

複数ある温浴施設のうち、セントロ(街の中心)のもっとも近くに位置するのが、バルネアリオ・ムニシパルです。
日中は大変な人気で芋を洗うような混雑ぶりです。

多くのメキシコ人に愛されていることの証拠ですが、落ち着いて湯浴みを楽しめるような雰囲気ではない場合がほとんど。
そこで今回は一番風呂にチャレンジすべく、日の出前から開店を待ちました。
早朝6時の開店ぴったりに、10名弱の年配客と一緒に内部へと潜入します。

入場料は80メキシコ・ペソで、後述の個室利用も料金に含まれます。
さすがにこの時間に観光客や家族連れはいません。
地元の常連客ならではの、あうんの呼吸で、皆するすると水着に着替えて湯船につかります。

浴場内には係員がいて、四方の壁に上下2階にわたって設けられている個室を、順番に割り当てられます。
個室は内部から施錠できますが、外部からはできません。

更衣を済ませ、脱いだ服の下に貴重品を隠し、入浴中に不審者が侵入しても気付けるように自分の個室の位置を覚えておきます。
浴場の中は暗く、サーチライト状の照明が隅に一か所しかありません。

日光の差し込まない時間帯は、厳かな感じすらあります。



温泉成分で褐色にコーティングされた浴槽は、複雑な形状をしながら全部で五つに分かれています。
両脇の円形の二つの浴槽に源泉が供給され、あふれた湯が中央部の大きなプールに流れ落ちます。

このプールは大人の胸まで浸かる深さがあり、ぬるく遊泳用です。
その横の二つの半月状の浴槽は、中央のプールと同程度のぬる湯ですが、入浴用に浅く作られています。
二階から眺めると、温泉の酸化の度合いの違いが分かります(源泉が供給される円形部のにごりが弱い)。

源泉の投入口は水面下にありますが、あふれた湯が中央のプールに流れ落ちる箇所を見れば源泉の供給量が分かります。
浴槽のサイズを考えれば、まずまずの湯の鮮度が保たれていると思われます。
円形の浴槽での泉温は38℃ほどで、決して熱くはありません。

しかし、塩分を多く含む泉質のため、体の芯からぽかぽかと温まってきます。
時間が経つにつれて名湯ぶりを発揮するというわけです。

午前7時、入場からわずか1時間で次々と個室が埋まってきました。
メキシコの他の多くの温浴施設同様、日中は騒がしい温水プールになり下がってしまうのが難点ですが、時間帯を選べば、温泉通でもその泉質と浴場の雰囲気に満足できるはずです。
ここは眠い目をこすって、一番風呂に挑んでください!
まとめ
Balneario Municipal "El Bañito", Ixtapan de la Sal, México, Mexico
私の好み
種類:日帰り
ルール:水着着用
塩素消毒:なし
泉温:~38℃