先入観とは厄介なものです。
私はこの泉源の前を何度も通り過ぎましたが、入浴可能なことに気づくのに4年かかりました。
ハイウェイ沿いの析出物
コロラド州西部を移動するなら国道550号線、通称ミリオンダラー・ハイウェイのお世話になることでしょう。
州南西部の観光都市、デュランゴから国道を北上すること20分、ピンカートン温泉のぬめぬめした析出物が目に飛び込んできます。

路肩が広く設けられていて、駐車スペースを探すのは簡単。
多くの観光客が小休止するランドマークになっています。

ユート族の居住していた当地が温泉地としての歴史を歩み始めたのが、1875年。
ジェームス・ピンカートンが入植し、温泉リゾートとして大いに栄えたようです。

リゾート施設は、今のColorado Timberline Academyの敷地にあったようですが、焼失しています。
泉源は元々ハイウェイの西側に位置していましたが、物見遊山の客が近くに車を停めて渋滞の原因になったことから、2001年には駐車場所を確保できる東側に引湯されました。

その際、垂直に立てられたパイプの周囲にセメントブロックで円すい状に段を設け、その上を源泉が流れるような意匠が施されました。

年月を経て全体が分厚い温泉成分でコーティングされ、今では自然物のように見えますが元々は人工物というわけ。

あふれ出た源泉は緩やかな斜面を赤茶色に染めながら、広範囲に渡り下っていきます。

地面では温泉成分が大きな結晶を形成しています。
海から遠く離れた内陸州だというのに、辺りはどういうわけか潮の香りがします。

源泉は地中に染み込みながら徐々に流れを弱め、最終的には私有地である林の中に消えています。

入浴不可とは書いていない
交通量の多い道路沿いにあって、休日はひっきりなしに見物客が訪れることから、私はてっきり眺めるだけの温泉という先入観に凝り固まっていました。

小雨の降る平日に訪れたとき、初めて入浴中の先客を発見。

確かに、入浴不可とはどこにも書いていないことに4年越しで気付いたのでした。

析出物の先端から噴出する源泉は、段を滑り降りるたびに炭酸の泡を生じながら、主に下部の湯溜まりへと流れていました。

泉温33℃のぬる湯。
鼻を近付けるとむせるような炭酸の強さが感じられました。

湯溜まりの近くには既製品のバスタブがありました。
こちらに流入する源泉は不足しているので、衛生的には好ましくないかもしれません。

それでも、析出物の山と一体化したタブの様子は一見の価値あり。

湯溜まりは適切な深さにせき止められ、新湯の投入量が多いことから比較的清潔に保たれていました。
場所が場所だけに水着は必須でしょう。

その他に必要なものがあるとすれば、心の余裕。
キッズに指を差され、見物客にカメラを向けられても悠然と構えられるかどうか。

真夏にうれしいシュワシュワの源泉さえあれば、きっとそれができるはずです。



まとめ
Pinkerton Hot Springs, Durango, Colorado, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:水着着用
塩素消毒:なし
泉温:~32℃