アメリカとメキシコの国境線のほぼ直上で入る温泉。
想像してごらん、国なんて無いんだと。
ビッグ・ベンド国立公園
アメリカ合衆国本土の国立公園のうち、ビッグ・ベンドはもっとも訪れる人の少ない場所の一つ。
テキサス州エルパソまたはサンアントニオから、車でいずれも5時間程度離れた遠隔地にあります。
ホットスプリングス・ヒストリック・エリアはこの公園の目玉の一つです。
道中、細いダート道を通りますが一方通行なので容易にアクセス可能。
駐車場にはくみ取り式のトイレが一つ。
ここから温泉まで、遺構の点在するエリアを往復1km弱のハイキングです。
この石造りの建物はかつての郵便局。
ここには温泉リゾートを中心とした町があったのです。
ミシシッピ出身のJ.O.ラングフォードは、自身が感染していたマラリアの治療法を探し求め、当地にマラリアに効く薬湯があるとの話を聞きつけました。
1909年、ラングフォードは当地を購入し、一家で移住。
マラリアへの治癒効果を確信した彼は浴場を建設し開発を進めましたが、1912年、盗賊の襲撃が相次ぎいったん当地を離れました。
一家が再び当地に戻るのは、15年後の1927年。
浴場を修復し、郵便局を建て、モーテルを運営し、1930~40年代初頭にかけて温泉リゾートは栄華を極めました。
1942年、一帯の国立公園化に伴いラングフォードは土地をテキサス州に譲渡しました。
遺構の数々を通り抜けると、石灰岩の崖に向かって遊歩道が延びていました。
先住民の象形文字。
白人が入植するずっと前から、温泉が重要であったことの証です。
トレイルはリオ・グランデ川に面して開けた場所に出てきました。
そこで私が目にしたのが、カラフルな針金細工とトレッキングポール。
どう見ても売り物ですが、周囲に人はおらず、そもそも国立公園には似つかわしくない光景です。
実はこれ、川の対岸に住むメキシコ人が温泉客相手に勝手に商売しているのです。
国境の温泉
川に向かって突き出た正方形のプールが、温泉でした。
10人入っても余裕の大きさ。
コロラド、ニューメキシコ、テキサスを流れてきたリオ・グランデ川は黄土色に濁っていました。
さほど大きくない川です。
対岸のメキシコに歩いて渡ることも、その気になれば簡単そう。
プールはかつてラングフォードが建設した浴場の遺構です。
1950年代初頭、公園管理局は安全上の理由から、浴場の上部をダイナマイトで破壊しました。
その後も、公園としてはまともにメンテナンスするつもりはないようで、少々土砂がたまっていました。
湯口はプールの底の一か所にあって、水面に波紋が生じるほど豊富な湧出が見られました。
泉温41℃、無味無臭の源泉。
風呂から見える世界には、目の前にあるはずの国境線はありませんでした。
僕たちの上には、ただ空があるだけ。
まとめ
Langford (Boquillas) Hot Springs, Big Bend National Park, Texas, U.S.
私の好み
種類:野湯(要入場料)
ルール:水着着用
塩素消毒:なし
泉温:~41℃