当ブログで紹介している温泉の中でも、もっとも知られていない部類に入ります。
廃鉱山の点在する山深くに湧く、ミステリアスな温泉です。
第二次世界大戦の遺構?
今回は、ヒラ国立森林公園から西方向に流出するヒラ川に沿って、上流へ遡る形で高度を上げていきます。
上流部のヒラ岩窟住居国定公園へは、南側に大きくう回する別の舗装路を進む必要があります。
一方、西側からのアプローチは未舗装路で、ターキー・クリーク温泉の手前でぷつりと途切れます。
路面の状況は徐々に悪化。
ロードクリアランスの高い車が必要です。
道の終点付近でヒラ川が急激に蛇行し、並行するダート道もヘアピンカーブを描く、この地点で車を停め、右手のブロック・キャニオンに分け入っていきます。
車で進入できないこともないですが、落石がひどいのでやめておいた方がよいでしょう。
ほどなくして、谷の中が整地された場所に出ます。
キャンプ場のように見えますが、管理されている気配はなく、どうにも奇妙です。
油膜の張った汚い水たまりを発見。
水温を計測してみると、38℃。
埋設されたパイプから、ぬるま湯が弱々しく湧き上がっているのを確認できます。
4年前に一度訪れたとき、温泉と呼ぶにははばかられる水たまりに半ば失望して、私は立ち去りました。
そして今回、「その奥に何かある」という真偽のほどは確かではない情報を手に入れ、再訪を果たしました。
周囲を注意深く見渡してみると、草陰に大きな穴が隠れています。
これは!坑道入口です。
コミカルなまでに鉱山らしい形状をしています。
何の廃鉱山なのか調べてみると、一帯はかつて蛍石の一大産地であったことが分かりました。
蛍石は、主に製鉄の融剤として使用されます。
第二次世界大戦の最中、製鉄需要が急速に拡大し、当地の坑道の数も加速度的に増えたとの記録が残っています。
大戦中の米国の圧倒的物量を末端で支えていた一つが、こんな鉱山だったとしたら面白い。
ミステリアスの湯
さて、ブロック・キャニオンを更に奥に進みます。
谷のもっとも低い所には水が流れた形跡がありますが、干上がっています。
岩石の隙間にわずかな水を見つけましたが、温泉ではありません。
涸れ川の河床がわずかに水分を含み、黒みを帯びている場所に出てきました。
これは、空のバスタブ。
探し求めていた「何か」に出会ってしまったことを確信しました。
何ということでしょう、河道の真ん中に岩石が人為的に組まれ、その内側に耐水性のビニールシートが敷かれています。
大きく屈曲した塩ビ管が地面に突き刺さって、そこから湯が供給されています。
源泉はやや色味を帯び、鼻を近付けるとアブラっぽい臭気が感じられます。
泉温53℃のあつ湯。
塩ビ管の太さの割には投入量は控え目ですが、浴槽のサイズとのバランスは良好。
ビニールシートの上に多少の析出物や泥が積もっていますが、静かに入ってしまえば大丈夫です。
極楽、極楽。
涸れ川の中央部に上質な源泉が湧いているなんて、誰が想像できたでしょうか。
元来た未舗装路の先にある、ターキー・クリーク・ホットスプリングスはそれなりに有名で、到達にはハードな沢登りが必要です。
その手前にこんなにアクセスしやすい温泉があることは、ほとんど知られていません。
それにしてもミステリアスな湯です。
泉源は鉱山の掘削と関係があるのか?
川の中にあって、鉄砲水等で流出しないのか?
誰が大掛かりな入浴システムを構築したのか?
全てが謎に包まれていて、そんな温泉が今この瞬間も世界のどこかに存在していることが、不思議に思われます。
まとめ
Brock Canon Hot Springs, Gila National Forest, New Mexico, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~53℃