砂漠をさまよっていた私の前を、バスローブを着たオジサンが横切りました。
いざ尾行開始!
古代湖の底で
テコパ・ホットスプリングスは、温泉街全体が携帯電話の圏外。
野湯の位置をうっかり調べないまま町まで来てしまい、それらしい場所を勘で探していると、ヒッピー風のオジサンを発見。
砂漠に……バスローブ?
温泉に向かっているに違いありません、ということで尾行。
乾ききったテコパの大地は、約1万年前まで古代湖の底にあったそうです。
もろい土壌がその名残。
植生を拒む荒涼とした風景の中で、温泉が自噴する周辺だけにヨシが生えていました。
完全なる静寂
舗装路から徒歩わずか数分で、沼までたどりつきました。
スタート地点が分かりづらいだけで、アクセス容易な野湯でした。
周辺の土壌には温泉成分が析出して、毒々しい色を見せていました。
細長い形状をした沼は、手前側がぬるく32℃程度。
奥へ進むにつれてどんどん水温が上がっていました。
看板を発見。
この湿地帯にはアマルゴーサ・ハタネズミという絶滅危惧種が住んでいる様子。
世界でもテコパの温泉周辺にしか生息していないとの説明書き。
ちなみにアマルゴーサとはスペイン語の「アマルゴ=苦い」に由来する地名で、アマルゴーサ川という涸れ川がデス・バレー方面へ続いています。
湯はにごっていましたが、温泉成分のためというより、古代湖の湖底に堆積した微細な泥が舞っているようでした。
一番奥まで来ると、湯溜まりの底から断続的に泡が発生していました。
この辺りに源泉が集中しているのが分かりました。
泉温を計測してみると44℃。
入浴するには熱すぎるぐらいの湯加減。
この湿地帯は希少動物が住んでいるだけでなく、過酷な自然を生き抜く生物たちの宝庫です。
厄介なダニに刺される被害が報告されています。
水際を入念に調べて、浸かるべきかどうか迷っていましたが、その横でくだんのヒッピーが全裸で泳いでいました。
何だか馬鹿らしくなってきたので、ハタネズミを驚かせないようにチャポンと浸かりました。
もっとも深い地点で1メートルほど。
底はフワフワの泥ですが接地感があり、底なし沼のような恐ろしさはありませんでした。
ほのかな硫化水素臭を伴う名湯。
先客が去ると、いよいよ砂漠で独りになりました。
辺りは自分の心臓の鼓動すら聞こえる完全な静寂に包まれました。
まとめ
Tecopa Mud Baths, Tecopa, California, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~44℃