その温泉は一見、汚らしく掃きだめのように見えます。
こういう場所でこそ、我々の審美眼が試されるのかもしれません。
醜悪な温泉
グレートソルト湖の北岸、ユタ州コリンは人口1,000人にも満たない小さな町ですが、かつては「ユタ州の異邦人の首都」と呼ばれ栄えていました。
この地域で勢力を拡大していた末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)に経済的・政治的に対抗するため、非モルモンの将校や商人が1869年に建設した町です。
今や「首都」の面影は何一つ見当たらない田舎町のはずれに、温泉が湧いています。
州道83号線沿いの空き地にたくさんの車が停まっているので、その温泉はすぐ発見できるでしょう。
中央付近に、見た感じ汚らしい構造物が一つ。
表に回ってみるとなおさら救いようがなく、掃きだめのように見えます。
実際、ガラスの破片などが落ちているので裸足で歩かない方がいいでしょう。
目をそむけたくなるのを我慢して観察すると、三つの浴槽があります。
それら浴槽を、くし状に取り囲んでいるコンクリートの壁。
その上に合板でできた貧弱な風除けが設けられています。
合板は落書きで塗りたくられ、芸術に昇華されているとは言い難いカオス状態。
浴槽にはそれぞれ一つずつ湯口があって、確かに温泉が注がれています。
泉温45℃、熱めの適温。
2020年の地震までは40℃のぬる湯だったというので、自然って本当に不思議です。
湯は独特のヒスイ色をしています。
ところどころ温泉藻が繁殖し、析出物も多いので汚らしく見えますが、かなりパワフルな泉質。
スティンキー温泉の名のとおり強い硫化水素臭が鼻を突き、ヌルヌルとした肌触りも強烈です。
志高き無法地帯
源泉は、ハイウェイを挟んで反対側にある温泉井戸から引湯されています。
郷土史によれば浴場はもともと泉源の位置にあり、19世紀の最初の所有者が温泉を郡に遺贈した後、郡が維持管理することになっていました。
年月を経てその約束は忘れ去られ、荒れるに任せていたといいます。
現在の所有者はベン・フェリーという個人。
つまり私有地を開放しているということです。
2000年までは多少まともな建物があり、浴場の体を成していました。
しかし、浴場の内部に硫化水素がこもったためか入浴中の客が死亡。
保健当局の立入調査の結果、あらゆる面から人間が入浴する最低限の基準を満たしていない、との警告を受けました。
ところが、フェリーはその後上屋を撤去しただけで、温泉は今でも利用可能です。
なぜならフェリーの意図は、現代医学で治らない病気を緩和できるかもしれない自然の驚異に、人々がアクセスできるようにする点にあるからです。
人々が彼の土地に「不法侵入」する形式をとった場合、行政は取り締まれません。
さあ、この醜悪な温泉から興味深い歴史、行政の限界、自然の驚異、そして高い志まで感じ取れたらもうけ物ですよ!
まとめ
Old Indian (Stinky) Hot Springs, Corinne, Utah, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~45℃