ドナー隊の悲劇の場所からもっとも近い温泉。
アクセスが簡単なため、壊れやすく貴重な野湯の一つです。
補足情報
この「秘密」の場所を訪れる際にはゴミ袋を持参し、持ち込んだゴミの量の2倍を持ち帰ってください。そして、人々への敬意と優しさを忘れないようにしましょう。
野ざらしの産業遺産
1840年代のアメリカでは、西部のオレゴン州やカリフォルニア州に移り住む開拓民が劇的に増加し、ドナー隊はそのうちの一つです。
ドナー隊の悲劇は、ごく普通の家族が寄り合った87人の一行がシエラネバダ山脈で大雪に閉じ込められ、食糧難の結果、約半数がカニバリズムの犠牲となった奇怪な事件として知られています。
興味があればWikipediaなどで調べてみてください。
人肉食は禁忌だからこそ、人々が関心を寄せる史話となったのが分かる優れた読み物になっています。
今回、ドナー隊の遭難地点から車で20分ほどのトラッキー川沿いに秘湯があるとの情報を聞きつけ、行ってみました。
州間高速道路80号線をファラドの出口で降ります。
ここには、1899年に設立され1989年に操業を終えた水力発電所があります。
申し訳程度の案内板はありますが、ほぼ野ざらし。
温泉までは片道1km程度の短いハイキングとなります。
発電所の遺構を回り込むように坂を上ると……
更に階段。
導水管を歩道橋で越えます。
太い導水管が、原始的な木の板で覆われています。
素晴らしい産業遺産が朽ちている光景には、心打たれるものがあります。
トレイル沿いに遺構は続きます。
右手の導水路は、西部開拓時代を想像させる木組みで支えられています。
時代背景の異なる構造物もあったりして、興味は尽きません。
トラッキー川を挟んで反対側にはユニオン・パシフィック鉄道が走り、長大な貨物列車が往来しています。
山道脇の斜面に、気泡を伴って湧く小さな泉を発見。
人肌程度の泉温がありました。
周囲は泥だらけで入浴には適しませんが、目的の温泉が近いことを予感。
ビニールシートの効果は絶大
川原が広くなっているところに、正方形の物体を見つけました。
農業用の何かだと思っていたら、ここが目的地。
野湯にありがちな破壊行為から免れ、丁寧に利用されている様子がうかがえました。
分厚いビニールシートを剥がすと、別のビニールシートで止水処理された浴槽が現れました。
源泉は無味無臭。
湧出口で泉温36℃のぬる湯ですが、カバーの保温効果のためか、浴槽全体で十分な温かみが感じられました。
浴槽内部は、カバーのおかげで泥の堆積も少なく快適。
高潔な志を持った一部の温泉愛好家により維持管理されているのでしょう。
静穏な谷の向こうで困窮を極め、共食いに至った人々がいたことに思いをはせながら、じっくりと湯に浸かりました。
まとめ
Farad Soaking Pool (Mystic Hot Springs), Farad, California, U.S.
私の好み
種類:野湯
ルール:混浴
塩素消毒:なし
泉温:~36℃